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東京高等裁判所 平成11年(の)1号 判決

被告人 株式会社クボタ 外一二名

〔抄 録〕

第一本件においてなされたシェア配分に関する合意(以下、「本件シェア協定」という。)に基づく調整の範囲について

一 関係証拠によれば、本件シェア協定の対象とされた本件製品の市場には、大別して、(1)地方自治体の水道事業部局など発注元事業体が、直接、各メーカーやその一次販売店に発注する直接需要の市場(以下「直需市場」という。)と(2)発注元事業体が工事業者に対して「工事一式」の形で発注し、その工事業者が各メーカーの販売店に対して工事の材料である本件製品を発注する間接需要の市場(以下「間需市場」という。)とがあり、本件当時、本件製品の取引総量の約二割が直需市場で、残り約八割が間需市場で取り扱われていた。

本件製品を製造している業者は、従前から被告三社のみであるところ、本件以前から、被告三社間において、本件シェア協定と同旨の協定が相当長期にわたり毎年度結ばれていたことは、関係証拠に明らかであるが、検察官請求甲八号証添付の別紙(本判決に別紙二として添付)によれば、昭和五七年度以降平成九年度までの年度ごとの被告三社間の直需、間需の両市場を併せたシェア協定上のシェア配分比と受注実績の割合比の各数値は、毎年度、相互に極めて近似していることが看取される(もっとも、栗本鐵工所関係被告人らの弁護人は、右に記載された受注の数値は、過少に報告されたものを含む数値であって、正確ではないと主張するが、後記のとおり、同社の場合でも、過少報告された受注量は、年間受注量の数パーセントに過ぎなかったと認められるから、被告三社の受注配分シェアと実際の受注量との関係を概観する上で、これが支障となるとは考え難い。)。

検察官は、本件シェア協定に基づく受注の調整は、<1>全国各地区の直需市場においては、指名入札に当たって、「名義決め」と称する受注談合を行って受注者を取り決め、<2>間需市場においては、被告三社とも、製品を卸す一次店、二次店などが系列化して固定していたことを利用して受注の調整を行い、<3>間需市場で調整ができなかった分は、東京地区の直需市場で受注談合によって最終的に調整することにより実行し、これにより、受注実績をシェア配分に相応させていた旨主張する。

これに対し、被告三社及び被告人らの弁護人は、全国各地区の直需市場において「名義決め」による受注調整を行っていたこと及び東京地区の直需市場で、同様の方法で最終的な調整を行っていたことについては、いずれも認めて争わないが、間需市場においては、原則として自由な競争が行われていた(栗本鐵工所関係被告人らの言い分)、競争の実質的制限はなかった(クボタ及び栗本鐵工所関係被告人らの言い分)、少なくとも価格に対して影響を及ぼすような競争の制限はなかった(クボタ関係被告人らの言い分)、直需市場におけると同様の影響、効果が及んでいたわけではない(日本鋳鉄管関係被告人らの言い分)、などと主張する。

しかし、右弁護側の主張も、本件シェア協定が、それまで各年度に存在したシェア協定と同様、直需、間需を区別することなく、本件製品の取引の総体に関して結ばれたものであり、直需市場で行った「名義決め」による受注調整が、本件製品の取引総量につき、被告三社のシェアを調整しようとするものであったことを否定するものではない。そして、被告三社間にシェア協定が存続し、これに基づく受注調整が行われることにより、被告三社が事実上寡占する本件製品の市場において、被告三社の立場はそれぞれに安定したものとなり、自社の本件製品の標準価格を、他社よりも一方的に値下げするなどの事業活動は、自社製品の売上げ増をもたらし、勢いシェア協定で合意された他社の受注シェアを蚕食することになって、シェア協定違反を招来するであろうから、事実上、実行困難となることは自明の理である。その意味において、本件シェア協定は、直需だけでなく、間需についても、市場における被告各社の事業活動を相互に牽制し、競争を実質的に制限するものであったことは明らかであるといわなければならない。したがって、本件シェア協定が作用するのは、直需市場に限られ、間需市場での競争を制限する効果はなかったとはいえない。

二 そこで次に、本件製品取引の約八割を占める間需市場においても、本件シェア協定に基づく受注調整作業が行われていたかについて検討する。

関係証拠によれば、以下の事実が認められる。

1 シェア協定の沿革等

クボタと栗本鐵工所は、昭和二〇年代から、国内における鋳鉄管の受注配分シェアを、七対三の割合で分け合っていたが、昭和二〇年代後半ころ、日本鋳鉄管が水道用鋳鉄管の市場に参入したことから競争が激化し、その結果、日本鋳鉄管の存立が危ぶまれる状態になり、その再建計画の過程で、大手鉄鋼会社の市場進出を懸念したクボタと栗本鐵工所が、これまで両社で分けあっていた受注シェアの各一割を日本鋳鉄管に分与して同社を存続させることとなり、昭和三〇年代前半ころ、三社間において、国内の鋳鉄管直管総需要数量につき、毎年、百分比で、クボタ六三、栗本鐵工所二七、日本鋳鉄管一〇の割合で受注する旨の合意が成立した(以下、この受注の配分を「基本シェア」という。)。その後、製品の主力が鋳鉄管直管から高品質の本件製品に移行した後も、基本シェアの合意は存続し、被告三社の営業担当部長等の会合(以下「部長会」という。)を毎年開き、前記の基本シェアを基準に、前年度の各社の受注実績等を加味して、年度ごとの各社の受注シェア(以下これを「年度配分シェア」という。)を取り決めていた。

本件製品に関して被告三社の関係は、このようなものであるが、加えて、本件製品の大口ユーザーである地方自治体の多くが、物品調達の公正を担保するために、最低でも二社ないし三社が参加する指名競争入札制度を用いて発注し、また、製品の安定供給を得る必要から、競業メーカーが存在する製品を求める傾向が強いため、本件製品について、被告三社が共存することが相互の利益でもあるという事情が存する。

2 年度配分シェアの合意に至る手順

(一) 部長会までの準備

被告三社では、全国を北海道地区、東北地区、東京地区、中部地区、大阪地区、九州地区の六営業区域に区分していたが(ただし、日本鋳鉄管は、大阪地区以西に営業拠点を持たない。)、(1)まず、東京地区の受注調整担当課長等が、毎年度、全国各地区のシェア関係担当者に対し、当該地区の当該年度の需要見込数量の報告を求め、(2)各地区の担当者は、地区ごとに被告三社の担当者が会合し、営業情報を交換し、各社の予測を比較検討した上で、需要見込数量を算出し、これをそれぞれ東京地区の受注調整担当課長等に報告し、(3)これを受けた右担当課長等が各社ごとに、これらの報告のほか、過去の地区別の受注実績、各地区の意見や要望等も集約検討した上で、担当課長レベルの会合を開き、全国及び各営業地区ごとの直需、間需両市場における三社の年度配分シェアの原案を作成し、(4)通常は、部長会の前に、担当部長ら上司にこれを提出し説明した上、その了解を得ていた。

(二) 部長会の開催

被告三社は、例年、七月ないし八月ころ、各社担当部長らによる部長会を開催し、年度配分シェアの原案を審議して、その年度の配分シェアの合意を形成していた。

平成八年度及び同九年度の各部長会においては、資料として、<1>前年度の全国及び各地区別の被告三社の受注実績(各受注トン数及び受注率)等の一覧資料、<2>当該年度の全国及び各地区別の需要見込数量に全国及び各地区別の配分シェア案の配分率を乗じて算出した被告各社の受注配分見込数量の一覧資料、<3>過去の全国及び地区別の年間需要量の推移と当該年度の受注計画数量の資料等が配付され、クボタ東京本社鉄管営業第一部の課長であった被告人小林が議事進行役をつとめて、(1)前年度の全国直需・間需両市場の総需要数量、各社の受注実績、年度配分シェアと受注実績との乖離等について動向の分析が報告され、(2)当該年度の需要見込総量及びこれに基本シェアを乗じて算出した各社の受注見込数量、前年度の年度配分シェアと受注実績との乖離を調整する方策等が協議され(その結果、平成八年度の会合では、前年の関西地方の震災特需で受注に遅れをとったことなどから生じた日本鋳鉄管の前年度受注実績の大幅な減少分を平成八年度から三か年をかけて、同社の年度配分シェアを上乗せ修正して調整することとし、また、平成九年度の会合では、前年に合意した同社のシェアの修正が効を奏しなかったため、更にシェアを上乗せ修正する旨の合意がなされた。)、(3)その上で、全国及び地区ごとの年度配分シェアが、平成八年度、同九年度とも原案どおり異議なく合意された。

3 年度配分シェア合意後の各社の対応

(一) 被告三社で合意された年度配分シェアは、直ちに各社それぞれ各地区の担当者に伝えられ、各地区では、その年度の受注実績の現況を踏まえながら、当該地区に割り当てられた年度配分シェアに沿うべく、他社とも協議し、直需市場においては「名義決め」を行って、受注実績の調整を行っていた。

(二) そして、年度末近くになると、各地区ごとに、被告三社の担当者が連絡を取り合い、それまでの受注状況を検討し、(1)年度配分シェアを上回る受注実績が見込まれる場合には、間需市場において当該年度の受注物件の一部を翌年度に繰り越して計上したり、(2)逆に、受注実績が年度配分シェアに達しない見込みの場合には、間需市場において、緊密な関係にある一次店に頼み込んで、前倒しの発注をさせ、受注増を図るなどして、年度配分シェアに相応する受注実績を上げるように調整作業を行っていた。

また、昭和六一年八月から平成五年三月まで栗本鐵工所仙台支店鉄管営業課長の職にあり、東北地区で営業を行っていた被告人近藤は、その当時、年度末になると、被告三社の地区担当者間で受注を譲り合う方法により受注調整を行ったことがあった旨供述しており(乙四七号証)、クボタ、栗本鐵工所の各一次店関係者の中にも、品切れになることが考え難い汎用型の本件製品について、事前に在庫の確認を得ておいたのに、年度末近く、納期段階になってから、欠品を理由に他社から購入するように求められたことが、毎年のように数回あり、これは被告会社相互の受注調整のために行われたと推測していたと供述した者がある(甲六七号証、七四号証)。

(三) 右のほか、大口受注に関し、関係証拠によれば、(1)北海道地区においては、本件当時、石狩西部・東部広域水道工事企業団や北海道企業局の実施する工事等の大型案件において受注予定の本件製品につき、被告三社間で、日本鋳鉄管が製造している口径(口径九〇〇ミリまで)のものか否かも勘案した上、受注の調整を行い(クボタ・栗本鐵工所間のみで割り振るものでは七対三に、日本鋳鉄管も製造していて受注可能な製品の場合は、被告三社で凡そ六対三対一に配分することとされた。)、後日、工事業者らによる工事請負の入札の結果、右調整で受注者とされた被告会社の系列特約販売店の得意先でない業者が落札した場合には、右受注配分をそのまま実行できないため、改めて被告三社の担当者間で話し合い、その落札業者を得意先とする、被告会社系列の販売店を介在させて、事前調整で受注が予定された被告会社の製品が納入できるように工作するなど、取引の事後調整を行っていたこと(甲三三号証、三五号証、五〇号証、五一号証、六〇号証、六一号証)、(2)平成八年ころ、地下鉄埼玉高速鉄道の下に河川浄化導水管を敷設する工事計画(三年間で十数億円の発注が見込まれた計画)に伴う本件製品に関する売り込み交渉で、栗本鐵工所はクボタに先行されていたが(なお、右は、日本鋳鉄管では製造していない大口径の製品の売り込みであった。)、栗本鐵工所鉄管事業部下水営業部が、シェア協定の観点から、クボタに申し入れて交渉の結果、クボタと栗本鐵工所が七五対二五の割合で振り分け受注することになったこと(甲第四二号証、六四号証、六五号証)が認められ、現に、昭和五二年ころから平成二年までクボタの東京本社鉄管営業部課長、鉄管営業第一部長を務めた小林秀樹は、受注調整の方針について、東京の直需市場の受注を最終調整弁としていたが、被告各社の受注実績を年度配分シェアに合わせるためには、間需市場においても、受注実績を配分シェアと大きく乖離しないように押さえ込んでおく必要があることから、受注量が多い大型工事の案件については、できるだけ被告三社間であらかじめ受注を配分しようとしていた旨供述し、昭和五五年当時の具体例を挙げて説明している(甲一七号証)。

クボタ関係被告人らの弁護人は、右(1)、(2)の事例につき、シェア協定との関連で行われたものであるかが明らかでないなどと主張するが、(1)の事例においては、関係者の供述に徴すれば、本件シェア協定の達成を目して行われたことは明らかであるし、(2)の事例においても、関係供述中、シェア協定のほかに調整の理由となるべき事情が見い出し難いことなどからして、シェア協定の存在を抜きにしてその経緯を理解することは困難である。

三 まとめ

1 以上のとおり、被告三社間のシェア協定は、各社それぞれにとって存在意義があり、毎年度、担当幹部が会合して、全国の各地区ごとの実情に則した配分シェアを策定し、受注の総量に対する年度配分シェアを取り決めて合意を形成していたのであり、各地区においては、担当幹部から下ろされて来た各地区のシェア配分に見合った受注実績をおさめるために、直需、間需の両市場において、種々の方策を用いて受注の調整を行っていたことが認められる。

栗本鐵工所関係被告人らの弁護人は、(1)受注を前倒しするなどの操作を行っていたことは、むしろ、本件シェア協定が、間需市場において拘束力を持たなかったことを意味し、また、(2)栗本鐵工所においては、他の二社に対し、受注実績の一部を秘匿して実績を過少に報告することも行っていたのであって、要するに、本件シェア協定は、半ば形骸化していた旨主張する。

しかし、(1)については、受注時期を前倒しすることにより、当該年度内の受注実績が増加し、これが次年度の年度シェア配分にも影響することになるのであるから、受注実績をできるだけ年度シェア配分に近づけようとする作業は、単なる数字合わせ以上のものであったというべきであって、弁護人の主張が妥当するとは言い難い。また、(2)については、関係証拠によれば、受注実績の数字に細工を加えても、最終的には、全体の受注量の数値と出荷実績とが乖離し、その差等が大きければ、他社に露見するであろうから、秘匿できる受注数量には限りがあり(甲四三号証)、現に、平成九年度に栗本鐵工所が秘匿した受注量は、同社の年間受注量の数パーセントに過ぎなかったのである(甲一〇号証、八二号証、乙一二〇号証)。したがって、弁護人指摘のような事情があっても、年度配分シェアの意義が形骸化していたとは言い難いのであり、被告三社は、いずれもシェア協定を意義あるものとして、直需市場だけでなく、間需市場においても、これに沿った受注調整の作業を行っており、間需市場においても、競争の実質的制限が存在したと認められる。

2 ところで、検察官は、間需市場での受注調整の方法について、被告三社が、製品を卸す特約販売店を系列化し、その関係が固定していたことを利用して受注の調整を行ったと主張する。しかし、関係証拠によれば、被告各社がそれぞれに、間需市場において、最終ユーザーである工事業者との間に介在する一次、二次の特約販売店を系列に取り込み、与信、取引上の情報提供、製品の安定供給、技術指導等の便宜を与えて販売力の強化に努めていたことは認められるけれども、組織的に、これら系列の特約販売店に指示を与え、あるいは工事業者らとの個々の取引にまで介入するなどして、間需市場における受注量調整を、積極的に行っていたとまで認めるべき証跡は見出せず、せいぜい支店レベルでの系列特約販売店の利用が散見されるにとどまるのである。

3 他方、関係証拠によれば、間需市場における特約販売店との個々の取引において、各社が仕切値より値引きすることが少なくなかったことが認められる。

すなわち、(1)栗本鐵工所の場合、平成八年度及び同九年度において、一次店との取引件数の約四分の三は、仕切値から値引きして販売していたこと(江村利次証言〔栗本鐵工所関係被告人ら〕、弁四三号証〔日本鋳鉄管関係被告人ら〕、弁四四号証〔クボタ関係被告人ら〕)、(2)クボタの場合では、平成七年から一〇年までの総取引数量の約三割について、特別仕切価格による値引きが行われたこと(塩本勝也証言、弁一六号証〔以上、クボタ関係被告人ら〕、弁四一号証、四二号証〔以上、日本鋳鉄管関係被告人ら〕)、(3)日本鋳鉄管の取引についても、平成七年四月から同一〇年三月までの間の取引数量の約三割について、仕切価格を下回る値引きがあったこと(弁二三号証〔日本鋳鉄管関係被告人ら〕、弁四五号証〔クボタ関係被告人ら〕)がそれぞれ認められ、これに反する具体的証拠は見出せないのである。

弁護側は、これらの事実を根拠に、間需市場においては、被告三社間において活発な販売競争が行われていたと主張する。この点、ある被告会社の本件製品の値引き前の仕切値自体が、他社のそれとの比較において適正なものであったか検証の術がなく、また、値引きの事情にも、<1>得意先の工事業者から値引きを求められたがこれに応じ切れない特約販売店に頼み込まれて、特別に値引きを行い(甲六二号証)、<2>受注実績を上げるため、年度末に系列特約店に頼み込んで購入してもらった見返りに値引きし(甲五九号証)、<3>用途の競合する鋼管、ポリエチレン管などとの売り込み競争のために値引きする場合などもあろうから、間需市場で行われる値引きが、すべて被告三社間の販売競争に関わるものとも一概に認め難いのであるが、値下げを伴う販売競争が間需市場で行われていた事実は、これを認めることができる。

4 これを要するに、被告三社それぞれの営業能力、各社に系列化された特約販売店の販売能力、これまでの長期にわたる基本シェア合意の存在などの諸要素が総合されて、本件製品市場における被告三社の力関係は、大きく変動することなく推移してきたため、受注量の約八割を占める間需市場で互いに販売競争を展開しながらも、被告三社間の受注実績は、全体として一種の均衡を保っていたのであって、そのため、年度配分シェアに相応するための受注の調整は、主として、受注の約二割を取り扱う直需市場での「名義決め」によってまかなっていたが、間需市場でも、一部の大口受注等について受注の調整を行うことにより、これを補っていたことが認められる。

(高木俊夫 羽渕清司 岡村稔 金谷暁 芦澤政治)

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